心不全とはどんな病気?

心不全ときくと、一般的には心臓発作?突然心臓が止まってしまうこと? と思う方が多いのではないでしょうか。心不全という病気はわかりやすく説明すると「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」と定義されています。(日本循環器学会・心不全学会)つまり心不全とは、急激に心臓が悪くなる急性心不全という病気よりも、徐々に心臓の働きが悪くなる慢性的な心臓病を意味することのほうが多いのです。日本人の死因の中で一番多いのが癌で、2番目に多いのが循環器疾患(2020年7月現在)ですが、循環器疾患の中で心筋梗塞は減ってきている一方で、心不全は毎年増え続けて、2020年現在、20年間で約2倍に増えています。(厚生労働省が毎年発表している人口動態統計より)しかし、癌に比べると心不全という病気の怖さについてはあまり知られていないのが現状です。実は心不全で入院したことのある人は平均で 5 年間に約半数(50%)の方が亡くなっています。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同等、前立腺がんや乳がんよりは不良なのです。心不全患者さんが増加している現状は「心不全パンデミック」といわれ、その対策の必要性が社会問題にもなっています。

心不全とはどんな病気?

心不全の原因は?どうやって予防するか?

心臓が悪くなる病気は全て心不全の原因となり得ます。すわなち、心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、不整脈、心筋症、高血圧症などすべての病気が進行すると心不全になる可能性があるのです。

さらにこのような心臓の病気をおこす原因は何か?まで突き詰めると、心筋梗塞や狭心症をはじめとした多くの心臓病の原因は、高血圧症、糖尿病、タバコなどの生活習慣病なのです。もちろん生活習慣と無関係におこってしまう心臓の病気もありますが、多くは生活習慣病が大元の原因になっています。したがって自分でできる心不全の予防が何か?といえば食生活や運動習慣などの生活習慣の改善ということになるのです。

心不全の原因は?どうやって予防するか?

心不全の症状

まず心不全の様々な症状を系統的に理解しやすくするために、心臓の構造と血液の流れから説明していきます。

全身から帰ってきた血液は右側の心臓のお部屋、右心に入り、そこから肺へ送り出され、血液中の二酸化炭素を放出して、酸素を取り込み、きれいになった血液が左側の心臓のお部屋左心へ入り、再び全身へ送り出されます。
心臓のポンプとしての働きが弱くなると、ポンプである心臓の手前に血液がうっ滞する「うっ血」という現象と、心臓から全身へ送り出される血流が低下する「低心拍出状態」という二つの現象がおこります。
心不全の症状はすべてこの二つの現象に起因します。
左心の上流、つまり肺にうっ血がおきると、動いた時の息切れ、動悸、呼吸の苦しさ、あるいは胸の痛みなどが出現します。右心の上流、つまり全身にうっ血がおきると、足の浮腫みや腹部膨満感、食欲不振、浮腫による体重増加などがおこります。低心拍出量状態に基づく症状としては、疲れやすい、だるい、尿がでにくい(腎臓の血流が悪くなることが理由です。)、夜間多尿、手足が冷たい、意識障害、などの症状があらわれます。これらは低心拍出量症候群と呼ばれる症状です。このように心不全では様々な症状が起こります。ただし、このような症状が全部一律に起こるわけではありません。症状の出方は心不全のタイプや重症度によって変わってきます。心不全でまず最初に出現しやすい症状は、体を動かした時におこる息切れ、動悸、胸が苦しい症状。そして足の浮腫みなどです。また、浮腫みによって急に体重が増えてきたときも要注意です。さらに心不全が悪化してくると、夜横になって寝ているときに咳が出たり呼吸が苦しくなったり、身の回りのことをするだけでも息切れがするようになります。

心不全の症状

悪化させない心不全管理

心不全を悪化させないで管理することは、慢性心不全、心筋梗塞、心房細動、弁膜症、心筋症などの心臓病で通院されている患者さんの日常管理でとても大事なことです。慢性心不全は急激に悪化する急性増悪という状態を繰り返しながら、徐々に悪化していきます。大きく状態が悪化した後は、飲み薬の調整や入院加療で状態は改善しますが、心臓の力としては徐々に弱っていきますので、とにかく日常で心不全を悪化させないことがとても大事なのです。

では具体的にどうすればよいのでしょうか?
まず心不全が悪化したときの症状をしっかり知っておくことです。それはうっ血の症状であり、次の5つが代表的な症状です。

  • 1
    体を動かしたときの息切れ
  • 2
    浮腫み
  • 3
    横になって寝ているときの呼吸困難
  • 4
    体重増加
  • 5
    安静時の呼吸困難

つまりこの5つの症状が起きないように注意をすればよいのです。
ではこのうっ血の症状が悪化する原因は何でしょうか?
多い原因を5つ挙げると、

  • 1
    塩分・水分の摂りすぎ
  • 2
    感染症(かぜや肺炎をきっかけに悪化)
  • 3
    過労
  • 4
    薬の飲み忘れ
  • 5
    不整脈

となります。この中で圧倒的に多いのが塩分や水分の摂り過ぎです。塩分の理想的な量は1日6gです。塩分がしっかり制限できていれば、水分は厳密に制限する必要のないことがほとんどです。ただし重度の心不全の場合は水分もしっかり管理する必要があります。どのくらいの制限が適切なのかは病状によって異なりますので主治医の先生に個別に相談する必要があります。また、過労を避ける、薬を飲み忘れないこともとても大事な点です。かぜを中心とした感染をきっかけに心不全が悪化することも多いです。熱や咳が長引くときは早めの病院受診が大事です。また、不整脈が増えると心不全が悪化しやすいことも覚えておきましょう。
このうっ血症状の悪化を防ぐ、いち早く悪化に気付くためにとても大切なことがあります。それが自宅での血圧、脈拍、体重の定期測定と記録です。急に体重が増えてきたとき心不全増悪のサインであることが多いです。特に塩分や水分を取りすぎていると体重が急に増加します。血圧が高すぎると心不全は容易に悪化します。また、脈拍を定期的に記録しているといつもより脈が速い、或いは遅い、血圧計で不整脈のマークが多くでるなどで、気づくことができます。血圧手帳を定期的に記録して、うっ血の原因となる五つの原因に気を付けて生活することで心不全の悪化を予防することができます。

悪化させない心不全管理

原因

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、心筋症、心臓弁膜症等のほか、高血圧を長く放置することも心不全の原因となります。慢性心不全の場合、自己判断による服薬の中断や塩分・水分過多で急性増悪を起こすことがあります。

治療法

食事・運動・喫煙等の生活習慣の改善や薬物療法が基本です。どんな原因の慢性心不全でも、自宅での定期血圧測定、体重測定を行い、適切な値に保つことが増悪予防に大切です。

心臓弁膜症

1 心臓の構造と弁について

心臓には4つのお部屋があり、右心房、右心室、左心房、左心室と名前がついています。そのお部屋を区切るのが三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁という4つの弁です。心臓の血液の流れを含めて説明すると、まず全身から帰ってきた血液が右心房に入り、三尖弁を通って右心室に入り、肺動脈弁を通って、肺に行きます。肺で二酸化炭素を放出し、酸素を取り込んできれいになった血液が左心房から僧帽弁を通って左心室に入り、大動脈弁を通って全身へ流れます。心臓の弁というのは閉じたり開いたりして、血液の流れを一方向に導き、逆流を防ぐ役割をしているのです。

2 弁膜症の種類

心臓弁膜症という病気は大きく分けると2種類に分かれます。それが逆流症と狭窄症です。逆流症とは心臓の弁が閉じたときに閉じ切らないで血液が逆流してしまう状態です。狭窄症とは弁が硬くなることによって動きが悪くなり、弁の出口が狭くなってしまう状態です。三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁それぞれに逆流症、狭窄症があるのですが、一般的に多いものは大動脈弁の狭窄症・逆流症、僧帽弁の逆流症、三尖弁の逆流症などです。僧帽弁の逆流症では弁が心房側に落ち込む逸脱症という病態もあります。

3 症状

心臓弁膜症が起こると心房のポンプとしての機能が弱くなりますので、弁膜症が進行すると動いた時の息切れや疲れやすさ、時に胸痛がおこります。つまりこれは心不全の症状と同じなのです。
このような症状は弁膜症が重症であるほど起こります。しかし多くの軽症から中等度の弁膜症は無症状のことが多く、健診などで心雑音や胸部レントゲンでの心拡大をきっかけに、心エコー検査を行って発見されることが多いです。

4 生活上の注意・悪化させないためには?

心臓弁膜症というのは一般に心臓に負担がかかると悪化します。加齢によって徐々に進行することが多いのですが、なるべく負担をかけないためには塩分と血圧の管理が大事です。塩分が多く、血圧が上昇すると多くの弁膜症は悪化して息切れなどの症状も起きやすくなります。したがって塩分を摂りすぎないようにして、血圧が高い人は適切にお薬を使って血圧を管理するのが弁膜症を悪化させないために大切なことなのです。

5 定期的にどんな検査が必要か?

胸部レントゲン、心電図、心臓超音波、採血(心臓の負担や心不全の状態を表すBNP・NT-proBNPなど)を定期的にチェックすることをお勧めします。検査の間隔は弁膜症の程度や年齢にもよりますが、一般的には年1回は検査をしておくと安心だと思います。もちろんより重度の弁膜症があって、症状もある人は定期的な通院が必要になります。

6 治療

治療はまず弁膜症の症状が出てきたときは心不全と同じ治療をします。
一般には血圧を下げるお薬や利尿薬を使って心臓の負担を減らす治療です。これはあくまでも症状を楽にする対処療法です。
そして弁膜症が重症になってきた場合は一般的には手術が必要になります。これは弁を取り換える置換術、弁を縫い合わせる形成術、また一部の弁膜症では外科的手術でなく、血管内からカテーテルで行う治療もあります。大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)や僧帽弁逆流症に対する経カテーテル僧帽弁クリップ術(Mitral Clip)などの治療がありますが、一般的にはカテーテル治療は高齢者や外科的手術の負担が大きく、手術に耐えられない人に適応となるものです。

7 感染性心内膜炎予防について

心臓弁膜症で弁置換術を施行した人や、多くの先天性・後天性弁膜症では体の中に細菌がはいったときに心臓の弁に細菌が付着、増殖して弁が破壊される感染性心内膜炎という病気を起こしやすい状態にあります。特に歯科処置(抜歯や出血を伴う口腔処置・歯石除去)が代表的なものになります。
出血を伴う歯科処置や一部の手術においては予防的な抗菌薬の投与を行ったほうが良い場合が多いですので、弁置換術後や弁膜症をお持ちの方は、歯科処置や手術前に循環器のかかりつけ医に予防的抗菌薬投与必要があるかどうか、お問い合わせすることをおすすめ致します。

心臓弁膜症

原因

高血圧・動脈硬化・加齢が主な原因です。生まれつき弁に異常がある場合もあります。

悪化した場合・合併症

息切れを生じやすくなり、進行すれば心不全になる可能性があります。

治療法

高血圧や心不全に対する薬物療法を行います。重篤な場合は手術(人工弁、弁の形成術)が必要です。

拡張型心筋症・肥大型心筋症

心筋症は、心筋に変化が起こり心臓の機能が低下する病気です。心室の中が大きくなり心筋が薄くなる拡張型心筋症や、心筋が厚くなる肥大型心筋症等があります。

原因

心筋症の原因は、遺伝性・ウイルス感染・膠原病など様々です。原因不明の場合も珍しくありません。

悪化した場合・合併症

進行すれば心不全となり、突然死のリスクもあります。

治療法

心不全に対する薬物療法が基本であり、生活習慣の指導等も行います。心筋症は急激な病状変化をきたしやすいため、専門医によるきめ細かい外来管理が重要です。必要に応じてペースメーカーの装着や外科的治療を行うこともあります。

急性心筋炎

急性心筋炎とは、心臓の筋肉に炎症が起こり、心臓の動きが悪化して心不全を起こしたり、危険な不整脈を起こす病気です。重症度は様々で軽症例では自分では気付かないうちに発症し、自然軽快することもありますし、劇症型心筋炎と呼ばれる重症例ではショック状態から心停止に至ることもあります。年齢に関係なく子供から大人まで発症する可能性がありますので注意が必要です。この病気は早期発見・早期診断がとにかく大事なのですが、心筋炎を疑ってかからないと見過ごしてしまうことが多いので、それが怖いところです。

1 どんな状況で発症するのか?

一般的には普通のかぜ様症状(悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感)やおなかの風邪(悪心・嘔吐・下痢などの症状)が先行し、その数時間から数日後に胸・心臓の症状がでてきます。一般的には数日以降に発症することが多く、風邪症状と心臓の症状にタイムラグがあることも一つのポイントです。

2 症状と診断

心臓の症状は、胸の痛み、動悸、息苦しさなどです。重症な例だと酷い倦怠感や冷や汗、意識障害などを伴うこともあります。軽い胸の症状はかぜの後に起こる気管支炎などでもよくある症状ですので、症状だけで心筋炎と診断することはできません。診断のためには心電図や胸のレントゲンを確認してもらうことです。レントゲンで心不全を疑う所見や、心電図で危険な不整脈や心筋傷害を表す所見があれば診断の手がかりになります。心エコーで心臓の動きを確認したり、採血で心筋の傷害を表す心筋トロポニンなどを見て、診断を確定するためには心臓カテーテル検査も必要になります。

3 原因

多くの心筋炎は風邪のウイルス感染後に心臓に炎症が起きることによって起こります。ほとんどの場合は風邪だけで治るのですが、風邪のウイルスが心臓の筋肉で炎症を起こすと心筋炎が発症します。一般に発症するかどうかに風邪自体の程度の強さは関係ありません。軽い風邪の後でも発症することがあります。コクサッキーウイルスをはじめとした多くの風邪ウイルスが原因となり、インフルエンザウイルスやCOVID-19コロナウイルスでも心筋炎の発症が報告されています。また、ウイルス感染以外にも細菌や真菌(カビ類)、自己免疫、薬剤、アレルギー、膠原病などが原因となって発症する場合もあります。そのような原因の場合には先行する風邪症状は必ずしも認められません。

4 経過

心筋炎は気付かないうちに発症し自然に治ってしまう軽症例から、ショック状態となり命に係わる劇症型まで様々な重症度があります。多くの心筋炎は重症例でも数週間のうちに炎症が収まり心臓の動きは回復しますが、一部には炎症が長く続いて、慢性心筋炎から慢性心不全に移行したり、心臓の動きが回復せずに命を落としたり、心臓移植を考えないといけない状況になることもあります。

急性心筋炎

大学病院・地域の基幹病院との連携

当院では責任をもって日常管理を引き受け、再び大きな検査や入院加療が必要な際には適切な医療機関にご紹介致します。院長は毎週木曜日午後に、町田市民病院で循環器専門外来を担当しております。